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天然ゴムラテックスアレルギーについて

医療現場において、手袋の着用は医療従事者の感染リスクを低減するためだけでなく、患者との交差感染を防ぐためにも必要不可欠となっています。しかし、感染性病原菌の伝播を防ぐ目的で着用する手術用手袋が原因により、皮膚に有害反応が発生してしまうことがあります。
 
手 袋による「標準的予防策」スタンダードプリコーション;SPが1980年代に導入されて以降、医療用手袋の使用はかなり増加しています。そのため、医療従 事者と患者さまが手術用手袋に曝露される頻度が増大し、多数の人に有害反応が生じています。しかし、技術が改善され、パウダーフリー手袋の開発や最新式の 製造工程によって、ラテックス反応の発症率がその後低下しています3。多数の医療従事者と患者さまにとって、ラテックスアレルギーのリスクは減少していま す3。
 
天然ゴム製手袋に対する有害反応は全身の皮膚刺激から重篤なアレルギー反応まであります4。
アレルギー発症の原因は2つに大別されます5。
1 天然ゴムラテックスに対する反応の場合
2 製造工程に使用されている他の化学物質による反応の場合
 
ラテックスは手術用手袋と他の多くの医療製品に使用されています。また、天然ゴムラテックスは衣類、手術用手袋だけではなく、おもちゃ、タイヤ、ドアや窓の密封材、弾性バンドなどの製品に含まれているので、大半の人は定期的に曝露しています。
 
手術用手袋は、天然ゴムラテックス手袋、合成ゴムラテックス手袋に大別されますが、ラテックスの特徴である弾性、快適性、強度、防護機能、耐アルコール性、経済性が考慮され、現状多くの施設において、天然ゴム製の手術用手袋が使用されています。
 
手 術用手袋が原因で発症する有害反応は、ラテックスアレルギーだけではありません。従って、ラテックス以外のアレルゲンについて認識することも重要です6。 また、その他の有害反応として、遅延型接触性皮膚炎、刺激性接触性皮膚炎、手袋のパウダーや手袋の製造時に使用されている他の感作性物質に対する反応など があります。さらに、石鹸、手洗い、研磨性の手拭きタオルの使用によって有害反応が実際に生じることがあります。アレルギーと手術用手袋の他の刺激に適切 に対処するには、正しい認識と対応が重要です。
 

免疫反応の生理学

抗原が体内に入ると、免疫反応が活性化します4。抗原が表皮のランゲルハンス細胞などの抗原提示細胞によって最初に認識されると、リンパ節および細網内皮細胞系が刺激されて、その抗原に対するT細胞と特異的な抗体が産生されます(図1)5。
 
#1 図1:獲得免疫の流れ
 
人 が同じ抗原に再度曝露された場合は、抗原抗体反応に加えて、細胞性免疫反応が再始動します。抗原との最初の接触に反応して産生され、リンパ節などに残って いたメモリーT細胞が、その抗原を「異物」として認識します。繰り返し曝露されるごとに、T細胞はサイトカインおよびマクロファージの局所的放出を刺激 し、炎症反応を引き起こします(図2)5。
 
図2:炎症反応
 
手袋による皮膚の有害反応
 
天然ゴム製手袋に対する有害反応は、比較的軽度の刺激性のものから重篤なアレルギー反応を発発症するものまであります4。
 
天然ゴム製手袋による主な4種類の有害皮膚反応
・即時型過敏症(I型 ラテックスアレルギー)
・遅延型過敏症(IV型 接触性皮膚炎)
・刺激性接触性皮膚炎
・手袋のパウダーによる刺激です。

即時型I型反応:ラテックスアレルギー

I型反応はラテックスに存在する残留蛋白質に対する反応です4。ラテックスには250種類を超える蛋白質がありますが、アレルギーを引き起こす可能性のあるものは約20%です。
反応は即時型で、一般に最初の接触の5~30分後に生じます。
よく見られる症状
・ 曝露部位に限局される腫脹および発赤
・ 痒みや灼熱感などの非特異的症状
 
症状が手袋を着用し接触した部位(局所的)に留まらず、別の箇所・全身に発症することがあります。
・ 結膜炎
・ 鼻炎
・ 気管支閉塞
 
ま た、まれですが、アナフィラキシーの症状が生じることがあります。I型アレルギー反応はIgE抗体によって媒介されます7。ラテックスに対するIgE媒介 性過敏症には急激に発症する早発相と遅発相があります。早発相では、血中のラテックス抗原が肥満細胞のIgE受容体と架橋し、肥満細胞を活性化して、気道 にヒスタミンや他のケミカルメディエーターを放出します5。メディエーターの放出は抗原への曝露の数分以内に起こり、アレルギー症状の発現と相関します (図3)7。
 
図3:I型アレルギー反応(早発相)
 
遅発相では、好塩基球、好酸球および好中球の流入があると、数時間後に症状が再度活性化します7。その後、ヒスタミン放出因子が産生され、その一部が好塩基球結合IgEと架橋し、炎症細胞放出メディエーターを刺激します(図4)。
 
図4:I型アレルギー反応(遅発相)
 
遅延型IV型反応―遅延型接触性皮膚炎
IV 型アレルギーは、手袋製造工程からの残留化学物質などの特定のアレルゲンに対する反応です(多くは加硫促進剤で、この臨床マニュアルの15ページに記載さ れています)8。反応は遅延型で、通常は最初の接触の6~48時間後に生じますが、症状が持続するのは4日までです。症状には以下のものがあります。
・ 紅斑
・ 腫脹
・ ひび割れ
・ 痒み
・ 浸出
・ 接触部位の皮膚乾燥(ただし、皮膚炎は接触部位を超えて拡大することがあります)
 
IV型反応は(手袋の残留化学物質などの)抗原が皮膚に浸透し、特異的な抗原に感作されたT細胞の形成が誘発されると始まります5。
 
アレルギーの人が抗原に繰り返し曝露されると、感作されたT細胞が再活性化し、炎症反応が生じて、IV型症状が引き起こされます5。
 
過敏症のその他の原因
 
手術用手袋に含まれる他の物質に対し過敏症となる人もいます。ラテックスと加硫促進剤以外の過敏症の原因には以下のものがあります。
・ ラノリン:手袋製造中に含まれる軟化剤・ポリオキシプロピレングリコール:手袋の製造工程で使用される凝固剤
・ 有機または無機の色素
・ 第四級アンモニウム化合物
・ 天然ゴムラテックス製品の分解を防止するのに使用する抗酸化剤
・ 防腐剤
 

有害皮膚反応と解決法

天然ゴムラテックスに対するアレルギーのリスク

ラテックスに対する有害反応のハイリスク
 
医療従事者
二分脊椎または脊髄損傷患者
複数回の侵襲的手術歴のある患者
ラテックス関係の労働者
アトピー患者
 
ラテックスアレルギーの発症率と発症リスクを高める要因には以下のものがあります。
 
・ ラテックス曝露の頻度および期間
– 長期にわたる頻繁なラテックス曝露
– 頻繁な手洗い、手もみ洗いおよび手袋パウダ
ーの研摩作用により生じた皮膚の損傷または既存の皮膚疾患
– 手袋着用後の手洗浄非実施??
– 手袋着用時の発汗
 
・ 曝露経路
– 手の傷や病変など、皮膚のバリア機能の損傷
– 口腔、鼻または気道の他の部分などの粘膜とアレルゲンの接触
– 循環系へのアレルゲンの侵入
 
・ 素因
– ラテックスへの頻回の曝露歴
– 頻回の侵襲的手術歴
– 二分脊椎または先天性泌尿器奇形などの慢性疾患患者
– アトピー患者またはバナナ、アボカド、他のフルーツやナッツなどの植物または食物アレルギーを有する場合
 
個々のリスクの評価
特 に医療従事者は自身のラテックスに対する感度を認識することが重要です。医療従事者は、食物、化学物質、不快を感じるような気体、衣類または他の頻繁に使 用する品物などへの反応に注意する必要があります。症状が再発する場合は、医師の診察を受ける必要があります。過敏症の徴候には以下のものがあります。
・ 曝露部位の発赤および腫脹
・ 痒み
・ 発疹
・ 膨疹
・ 過度の流涙
・ くしゃみ、痒み、鼻からの水溶性分泌物
・ 眼瞼の腫脹
・ 呼吸窮迫
 
ラテックス反応のリスクを軽減するための予防手段には以下のものがあります。
・ 必要があれば、医師の診察を受けることによって特定のアレルギーを識別する。
・ アレルギー識別バンドを着用する。
・ アレルギー再発の徴候および症状を報告する。
・ ラテックスの成分を含有する日常品を使っていないか調べる。
・ 職場においてラテックスに過敏な従業員を考慮する会社の方針を理解する。
・ 皮膚(肌)は天然の免疫バリアとなるので、皮膚をきちんと手入れする。
・ 直接および空気を介して特定のアレルギーを引き起こす因子(アレルゲン)への接触を避ける。
・ 皮膚(肌)に問題がある場合は速やかに医師に相談する
 
リスクがある患者さまの評価
標準的な質問票を利用して患者さまのラテックスアレルギーのリスクを判断してください。患者用質問票では、患者さまに以下の病歴があるかどうか確認することができます。
・ ラテックスに対する反応
・ バナナ、アボカド、他のフルーツまたはナッツへのアレルギー
・ 幼児または小児の頃に大手術または複数回の手術の有無
・ 頻回の歯科治療、カテーテル挿入または浣腸
・ 喘息または枯草熱
・ 手の湿疹または皮膚炎
・ 尿道カテーテル挿入、バリウム浣腸、歯科治療、コンドームの使用、風船をふくらます、または家庭用手袋などの家庭用製品への接触時またはその後に、局所または全身の腫脹、発疹、炎症または呼吸窮迫の発症
・ 麻酔による原因不明の異常
 
現状のラテックスアレルギー発症
疾患の感染防止を目的とする手袋の着用により、天然ゴム製手袋への医療従事者の曝露に伴い、ラテックスアレルギーの患者がかつて増加しました。
ラテックスアレルギーの発症率は、製造技術の改善やラテックスアレルギーに関する教育およびラテックス代替品の開発により現在は低下しつつあります3。
医療従事者におけるラテックスアレルギーの発症率を分析した研究では様々な結果が得られており、医療従事者の間では0.6~10%がラテックスアレルギーであると推定されています6,8。また、一般の人の発症率は1%以下と推定されています。

 

医療用手袋におけるアレルギーの検査方法

アレルギーを確定するための多数の診断法を使用して、ラテックスアレルギーまたは化学物質アレルギーを診断することができます。これらの検査はアレルギー専門の医師の指示のもと実施する必要があります。
ラテックスアレルギーの検査方法
・皮膚テスト(プリックテスト、スクラッチテスト):臨床医が医療現場で簡便に施行可能
・血液検査による抗原特異的IgE抗体測定測定
・ヒスタミン遊離テスト
・除去試験・負荷試験
 
化学物質アレルギーの検査方法
・パッチテスト:化学物質アレルギー(アレルギー性接触皮膚炎)の診断において、最も有用な診断法
 
ラテックス蛋白残留量検査方法
ラテックス製品の蛋白質含有量使用する方法として、代表的なものに、FITキット試験があります。

 のアレルゲン合計が、0.15ug/g 以下ならば、ラテックスアレルギーを発症する確率が低い

Fitキット試験は、感度・特異度がともに高く、ASTMの試験方法としても用いられています。
Fitキットの試験結果に関しては、各メーカーにご確認下さい。
 
ラテックスアレルギー安全対策ガイドライン2009より抜粋

手袋の製造における加硫促進剤の役割

手袋(天然ゴム・合成ゴムに関わらず)の製造においては、化学物質を使用することにより、ラテックスが当初の液体状態から非常に薄 く、強く、弾性のある皮膜に変化します。加硫促進剤は、硫黄と手袋の材料との結合速度を増加させるために製造工程で使用されます。硫黄は、手袋の材料の結 合を促進して、伸縮性に富んだ製品を形成するのに使用します。また、手袋の強度を高め、使用中のラテックスに一体性を付与し、長期保存のためにラテックス を安定させます。
 
主な加硫促進剤
チウラム、ジチオカルバメート、メルカプトベンゾチアゾール(MBT)という3種類の主な化合物が加硫促進剤として使用されています。
また一部の残留加硫促進剤は皮膚刺激の原因となることがあります。
 
チウラム
チウラムはIV型の遅延型接触性皮膚炎の原因として最も多いとされています。チウラムは加硫時に分解し、硫黄とカルバメートを遊離します。
 
メルカプトベンゾチアゾール
メ ルカプトベンゾチアゾールは当初は比較的強力な感作物質と考えられていましたが、このグループの化合物に対する感作の発現率は他の加硫促進剤よりも低いも のです。これは手袋の製造に使用される頻度が少ないためであると考えられます。メルカプトベンゾチアゾールは天然ゴムに溶解することから重要な加硫促進剤 です。
 
ジチオカルバメート
ジチオカルバ メートは、硫黄を吸収して手袋の材料内に運ぶことによって架橋と加硫を促進します。34種類を超えるジチオカルバメートがあり、チウラムやメルカプトベン ゾチアゾールよりも感作性はさらに少ないものです。これらの化合物には、天然ゴムラテックス中の加硫促進剤の溶解と硫黄と反応する能力にとって重要な亜鉛 が含まれています。
 
加硫促進剤の添加の有無、また添加剤の種類に関しましては、各メーカーにご確認ください。
 

用語集

加硫促進剤―手袋の形成を速めるために添加される化学物質
アレルゲン―  花粉、工業用化学物質、ある種の食物、鱗屑などのアレルギー反応を引き起こす原因となる抗原
アナフィラキシーショック―感作されている物質への曝露により生じた重度の過敏性反応。数分以内に生じ、生命を脅かす。呼吸困難、チアノーゼ、咳嗽、脈拍の変動、発熱、痙攣、虚脱を伴い、直ちに治療しないと死に至る
抗体―B細胞が産生する蛋白質で、抗原を認識して結合する働きを持つ
抗原―身体に浸入する物質
抗酸化剤―酸化(例えばゴム製品の劣化)を防止するために使用する化学物質
アトピー性―枯草熱、喘息、湿疹、蕁麻疹などのある種のアレルギー性家族性疾患を発症する傾向
架橋―個々の分子を結合すること
チアノーゼ―ヘモグロビンの減少によって生じる皮膚および粘膜の蒼白化
皮膚炎―刺激原との接触部位に生じ、発赤、痒みおよび種々の皮膚病変によって示される皮膚の炎症
湿疹―発赤、皮疹、痒み、灼熱感を伴う急性または慢性の皮膚の炎症状態
紅斑―びまん性の発赤を示す皮膚の領域で、通常は毛細血管のうっ血によって生じる。
ヒスタミン―肥満細胞と塩基性顆粒に蓄積されている。アレルギー反応時に放出される。
免疫系―身体に侵入しようとする感染性病原菌と常に闘い、無効にし、破壊し、身体から除去する組織および白血球の集団
免疫グロブリン―抗体としての機能と構造をもつ蛋白質の総称で、Igと略記するIgG,IgM,IgA,IgD,IgEの5種類がある
免疫グロブリンE (IgE)―アレルギー反応と関連するタイプの抗体
局所反応―刺激性物質との接触部位など、一定の領域に限定された反応
マクロファージ―感染性病原菌、死亡した組織および細胞を摂取する大型の貪食細胞
肥満細胞―アレルギー反応後に損傷した組織から放出されるヒスタミンなどの毒性物質を放出する特異的細胞
感作―アレルゲンへの曝露によって過敏になり、身体の免疫系を刺激して抗原に特異的な抗体を生成すること。
T細胞―主にリンパ節で産生され、循環系を通して送られて、感染性病原菌に対し迅速かつ強力な防御を行うリンパ球の1つ
ヘルパーT細胞―CD4T 細胞が分裂・分化したもの。Th1細胞は、抗原提示細胞と共同して抗原等の異物がある場所へマクロファージを呼び寄せる働きを持った物質を産生する。 Th2細胞は、B細胞にIgE抗体を産生するよう命令を出す蕁麻疹(urticaria)―皮膚のアレルギー反応で、痒みのある斑点状の発疹。膨疹 (weal)、hivesとも言う。
膨疹―虫刺されなどによる皮膚の痒みを伴う腫れ   
ケミカルメディエーター― 炎症反応に関係して、他の細胞に作用する働きを持った物質の総称。アレルゲンの侵入後、最終的に白血球やマクロファージなどの炎症細胞を呼び集める働きを 持つサイトカイン―ケミカルメディエーターの中でも、様々な細胞から産生され、炎症全般を支配する重要な炎症メディエーター。インターロイン、インター フェロンなどが含まれる
 

引用文献

  1. Yip ES. Comments to the Maine legislature on proposed prohibition of sale of non-sterile latex gloves. 2003.
  2. O’Gilvie, W. Latex sensitisation in the health care setting. Device Bulletin 9601 April 1996, The Medical Devices Agency of the Department of Health.
  3. Guyton AC, Hall JE. Textbook of medical physiology. 10th ed. Philadelphia: WB Saunders, 2000.
  4. Susman E. AAAAI: Latex sensitivity infrequent in health careworkers. In: Doctor’s guide global edition. 2003.
  5. Robbins SL, Cotran RS, Kumar V (eds). Robbins basic pathology. 7th ed. Philadelphia: WB Saunders, 2003.
  6. Sussman G. The effects of interventions and glove changes in health care workers with latex allergy. Ann Allergy Asthma Immunol 2003; 90: 179–80.